何とかして欲しいカタカナ語と和製英語2 -ワーク(work)とウォーク(walk)-
日本独自のカタカナ語と和製英語の中には「ちょっとこれはさすがに勘弁してよ…」というものがいくつかあります。
今回はそんな中の「間違った発音で日本語に取り入れられたカタカナ語」で、本当に勘弁してほしい代表選手、「ワーク(work)」と「ウォーク(walk)」です。
ワーク(work)とウォーク(walk)は発音が全く逆!
英語の発音をカタカナに変換する時点で既に無理はあるのですが、それにしてもワークとワークはひどい、と私は日々痛感しています。 と言うのも、実際の英語の発音に近いのは「work→ウォーク」で「walk→ワーク」と、まったく逆になるのです。
(「ワーク」と「ウォーク」と言うカタカナ表記自体が正しい音を表現できている、と言う前提での話です)
X work→ワーク
X walk→ウォーク
○ work→ウォーク
○ walk→ワーク
この話を毎回英語の授業などですると、必ずほとんどの生徒が「ウソ〜」と信じてくれません。
Sony(ソニー)の「ウォークマン」せい?
「work→ウォーク」「walk→ワーク」が正しいと言う事実を疑う生徒が、必ず次に言う一言目は「だってソニーの『Walkman(ウォークマン)』って言うじゃん?」です。
まぁこれはある程度の年代の人かもしれませんが、それだけソニーのウォークマンは人々の生活スタイルを変えたと言っていいほど普及した製品だったわけです。しかし逆にそれだけ影響力が強かった製品なので「walk→ウォーク」と言う間違った発音が日本人に浸透してしまったのでしょう。
実際にソニーが日本で初めて「walk→ウォーク」としたのかは分かりません。それまで日本では「work→ワーク」が 一般的だったため「work→ワーク」と差別化するために「walk→ウォーク」と誰かがどこかの段階で決めたのかも知れません。
しかし、まず「work→ワーク」からして間違っていたのです。
実際の発音を聞いてみよう
世の中がそうだからとか、大昔の誰かがそう決めたからそう、ではなく、実際に自分の耳を信じて音を聞いてみましょう。
work
walk
「work→ウォーク」で「walk→ワーク」となっていますよね?
先程のそれを信じない生徒さんのほとんどもここで納得しますが、中にはかたくなに「いやそれでも違う」と主張を曲げない人もいます。 そんな人は固定観念に縛られて、実際に自分の耳で聞いていないとしか思えません。
発音記号も逆になっている
そんな人には最終的には発音記号を見せます。
work → wˈɚːk
walk → wˈɔːk
最初の「w」の 発音
単語の最初に使われる「w」の 発音が日本人には発音しにくいと言う事と、表記しにくいと言うこともありますが、あえてカタカナで表記しようとすると「ゥワ」 と言う感じでしょうか?
workの発音
「work」は、そこから「or」となるので「ゥワォー」「ゥワォーク」→「ウォーク」。
work ≒「ゥワォーク」→「ウォーク」
walkの発音
そして「walk」は「al」でそのまま伸ばすので「ゥワー」となり「ゥワーク」です。
walk ≒「ゥワーク」→「ワーク」
イギリス英語では?
さて、ここまで話してきたのはアメリカ英語の発音の話です。
イギリス英語に関しては、基本的な一般的な知識しか知らない私や多くのアメリカ人は、アメリカ英語とは異なるイギリスの発音を全て理解しているわけではありません。
アメリカ英語を基準としている私やアメリカ人にとって、今回の「work→ウォーク」「walk→ワーク」は、なぜわざわざ逆にカタカナで表記するようにしたのか理解不能でした。
そこでふと「ワーク・ウォーク」は、イギリス英語ともやはり違うのか?と一応調べてみることにしました。すると…
work(英)
walk(英)
なんとイギリス英語では「work→ワーク」「walk→ウォーク」に近い発音で話されているじゃありませんか!?
それでも work は「ワーク」ではない、と私もほとんどのネイティブも言いますが、もともとカタカナ語が正しい英語の発音を捉えられてないと言う前提で話すと、「walk」は「ウォーク」に近い感じです。
イギリス英語の発音
work → wˈəːk(英)
walk → wɔːk(英)
日本の「ウォーク」「ワーク」はイギリス英語から来ていた?
結論から言うと、日本語の「ウォーク」「ワーク」はイギリス発音をカタカナ語にしたもの、と考えるべきなようです。
カタカナ語の多くはアメリカ英語から来ている
「work・walk」に関しては、イギリスとアメリカの発音が全く間逆というのは事実です。そうなるとカタカナ語の「ウォーク」「ワーク」は、そこまで大間違いではないのかも知れません。
それでも厄介なのは日本のカタカナ語の多くはアメリカ英語から来ていると言うことです。
アメリカ人からすれば、イギリス人が話しているのを聞く場合、当然終始イギリス英語で話すと言う前提で聞いているので、「work・walk」の発音が入れ替わっていても、それほど違和感を感じません。
逆にイギリス人からしても、アメリカ人の話す「work・walk」が入れ替わっていても、それはアメリカ英語を話しているから、と言う前提でそれほどの混乱は生じないでしょう。
欧米人が日本語を学ぶときに1番厄介なものはカタカナ語
話はやや飛びますが、ちょっと不思議に思うかもしれませんが、欧米人が日本語を学ぶときに1番厄介なものはカタカナ語だと言います。
それは自分たちの母国語から来ているハズなのに、意味が違ったり発音が違ったりすると言う所が大きいようです。
そんな中、彼らは必死に日本のカタカナ語を理解しようとします。そしてそのカタカナ語のほとんどがアメリカ発音に似ていると言う前提で聞いているのに、なぜか「work・walk」だけは逆の発音(イギリス発音に近い)をしているとなると、それは他のカタカナ語以上に混乱するものです。
work・walk 聴き比べ
「work・walk」の アメリカとイギリスの発音の違いをさらに聴き比べてみましょう。
まずは現在進行形と過去形での発音。
working → worked
アメリカ発音
イギリス発音
walking → walked
アメリカ発音
イギリス発音
次に少なくとも製品としては実際には存在しない「workman」 と言う発音を聴き比べてみましょう。
workman
アメリカ発音
イギリス発音
そして、渦中の本家「walkman」
walkman
アメリカ発音
イギリス発音
いかがでしたか? 頭が混乱して来ませんでしたか? 私はめちゃくちゃ混乱しました。(笑)
これが私やアメリカ人、ひいてはその他の欧米人が日本のカタカナ語を聞いたり話したりするときの混乱具合です。
また最後の「workman」と「walkman」を聞いて、日本のカタカナ語はイギリス発音をモトにしているから「『walk→ウォーク』で『work→ワーク』が正しいんだ!」と言い切れるでしょうか?
どれも「ウォーク」に近く聞こえたり、どれも少なくと「ワーク」ではないと感じたりしなかったでしょうか?
それもほとんどのネイティブがイギリス英語の「walk」もアメリカ英語の「work」も「ワーク」ではない、と言う理由です。
私の結論
やはり英語をカタカナで表記すると言う限界がそこにあるわけですが、繰り返しになりますが「ウォーク」「ワーク」が正しい音を表現しているとするならば、私の結論としてはアメリカ英語に関しては「work→ウォーク」「walk→ワーク」が近いと言うしかありません。
私自身も結構苦労する
私自身この日本語の「ウォーク・ワーク」に関しては結構苦労をします。
まだ「work」を「ワーク」と言うだけで済むなら、「ほんとは間違っているのに」と思いながら、やや小っ恥恥ずかしい気持ちで「ワーク」と言えば済むことですが、「work」を使った単語は非常に多くあります。 そしてそれらの多くは日本では当然のように「ワーク」と表記・発音されます。
「worksheet → ワークシート」
「workflow → ワークフロー」
「artwork → アートワーク」
「patchwork → パッチワーク」
「network → ネットワーク」
「workshop → ワークショップ」
「desk work → デスクワーク」
これらの言葉を言うとき、私やアメリカ人の頭の中には、やはりまず英語の「work」が浮かび、それを一旦日本語のワーク(本来walkの発音)に変換して、それから発言しなければいけないのは非常にもどかしいし、混乱します。
頭が回っていない時や、急いでる時などは「work」を「ウォーク」と発音してしまいます。
そしてそれを日本人からはおかしい、間違っていると指摘されてしまうジレンマというか、なんというか…
本当はこっちが正しいのに…と思ってしまいます。
まとめ
この「work・walk」の発音は、皆さんがどちらの国の英語をマスターするかによって問題となっていくでしょう。
これまでイギリス英語を学んできて、今後もイギリスでイギリス人のみに対してイギリス英語発音でイギリス英語を使用していくのなら、日本語の「ワーク・ウォーク」に慣れていてもさほど問題は無いかもしれません。
しかしこれまでアメリカ英語を学んできて、今後もアメリカでアメリカ人に対してアメリカ英語を使用していくのであれば、「work→ ワーク」で「walk→ウォーク」は必ず彼らから誤解を招き、そして発音の修正を都度されるでしょう。
どこの誰が1番最初に「work→ ワーク」「walk→ウォーク」と決めたのかは知りませんが、日本に紹介された英語がアメリカ英語から始まって今日まで来ているというの考えると、ある意味不思議な現象ですね。
そしてこれだけ「ワーク・ウォーク」で普及してしまったので、きっと今更正しくは戻せないんでしょうね…
おまけ(YouTube動画)
今回の「work・walk」のように「発音が似ている単語でカタカナ表記が間違っている単語」の動画を YouTubeで公開しました。 こちらもよろしければ見てみてください。
今回の「work・walk」もこちらの動画で紹介しています。
(「work・walk」は 1:23 辺り〜)