アニメ用語 「フルアニメーション」「リミテッド・アニメーション」「コマ打ち」とは?

 以前こちらの記事でアニメーションの種類を紹介しましたが、

アニメーションの種類全種類網羅!アニメーションの種類はいくつ?

 今回解説する「フルアニメーション」、「リミテッド・アニメーション」、「コマ打ち」はアニメの種類であってアニメの種類ではありません。と、トンチのような表現ですが、これらはアニメそのものの種類と言うよりは撮影の手法のことです。

「フルアニメーション」と文字数が多いので以下、下記のように短縮した形を適時使用します。

「フルアニメーション」(以下「フルアニメ」もしくは「フル」)
「リミテッド・アニメーション」(以下「リミテッド・アニメ」もしくは「リミテッド」)

 解説をする前に話しておきますが、まず「フルアニメ」や「リミテッド・アニメ」などに対する一般的な説明をしますが、その定義や各定義の境界線は、人によって捉え方が違い、実はあまり明確ではない部分も多い、と言うことも頭に入れておいてください。

フレームレート(fps)とは

 フレームレート(fps:「frames per second」の略)とは、1秒間の動画が何枚の画像で構成されているかを示す単位のことです。

 実はこのフレームレートとは全世界共通ではなく、いろいろなフレームレートがあります。しかし一般的には24fpsか30fpsが一般的とされていて、その中でも24fpsが1番一般的と言えるでしょう。

アニメーションのフレームレートは24fps

 アニメーションのフレームレートは基本24fpsです。

 これはもともとアニメーションがフィルムで撮影されていたことに由来すると考えられます。「1秒間に24フレーム」とは、言い換えれば、「1秒間に24枚の絵」、と言い換えることができます。
アニメの場合特に、このフレームのことを「コマ」と呼んだりもします。
(例:アニメの映像は秒間24コマ)

フルアニメーションとは

 フルアニメーションとは、先ほどの24fpsの映像(アニメ)において、1フレーム毎に絵が毎回変化する、要するに 1秒間が24枚の異なる絵で構成されているアニメーションのことを言います。

 すべての異なる動きが描かれていることで、結果滑らかで実写に近い自然な動きを表現できる、とされています。

 ディズニーの『白雪姫』(1937年)は代表的なフルアニメーションの作品と言われます。

リミテッド・アニメーション

 リミテッド・アニメーションとは「フルアニメ」に対し、動きを簡略化し、セル画の枚数を減らすために考案された表現手法です。

 具体的には、キャラクターの動きを描くのに全身を毎回描くのではなく、動かない体などの部分は1枚のみで、動いている目・口・手だけなどを別のセルに描画して動かし、省力化を図ります。

Aセル=動かない部分 Bセル=動いている部分 →動いている部分のみ描画して省力化を図る。
絵:「おばかさんダリオの話すための英文法」より © Da Rio Productions


 後の解説を表現しやすくするため、以降では「全身を描く」(≒フルアニメ)と、その逆の手法を「全身を描かない」もしくは「口だけ動かす」・「口を別に描く」とします。この「全身を描かない」アニメはリミテッド・アニメと言われます。

 また次に紹介する「コマ打ち」の手法で、本来1秒間に24枚必要なところを、12枚や8枚の絵で撮影する方法もこのリミテッド・アニメで使われた手法です。

 ワーナー・ブラザースの『ドーバーボーイズ』(The Dover Boys 1942年)で初めて実用化され、その後アメリカのアニメーション制作会社UPAやハンナ・バーバラなどにより使用されました。

「コマ打ち」とは

 「コマ打ち」の「コマ」とは 先ほども言ったようにフレームのことです。
 フルアニメーションは24コマの全ての各1コマ毎で絵が変わるので「1コマ打ち」(絵は24枚/秒)と言われ、2コマ毎に絵が変化するものは「2コマ打ち」(絵は12枚/秒)。3コマ毎に絵が変化するものは「3コマ打ち」(絵は8枚/秒)と言われます。

 要するに何コマ毎に「打って(変えて)」いくかを表します。
 「2コマ撮り」「3コマ撮り」(やや口語?)などとも言われます(「コマ打ち」は総称)。

 下の図はフルアニメとコマ打ちを図解したものです。
ページの関係上、12コマまでしか表示できませんが、1秒間はこの倍と思っていただければ意味は通じると思います。

 ちなみにこれもウェブページの特性上フィルムを横長で表しましたが、ご存知かと思いますが、横長フィルムは写真用のフィルムで、映画用のフィルムは右の画像のように縦長になっています。

またも「おばかさんダリオの話すための英文法」© Da Rio Productionsより、今度はダリ子に登場してもらいました。

「2コマ打ち」「3コマ打ち」は見やすくするために背景にワザと分かりやすい色をつけました。

 日本初の30分もののTVアニメシリーズ「鉄腕アトム」でも「3コマ打ち」で、「全身を描かない」リミテッドアニメの手法が使われ、これによりリミテッドアニメが日本アニメでの手法として定着し現在に続いています。

「コマ撮り」とは?

 先ほどちらっと話した「2コマ撮り」、「3コマ撮り」ですが、『やや口語?』としたのは、 話し言葉ではよく「2コマ撮り」、「3コマ撮り」と聞き「コマ打ち」と同じ意味で使われたりしますが、これが「2・3コマ撮り」が「2・3コマ打ち」と混合された、厳密には間違った表現なのか?という確実な文献は見つけられませんでした。

 アニメの種類の1つ「ストップモーションアニメーション」では、その別名が「コマ撮りアニメーション」とも言われるように、ストップモーションアニメでは「コマ撮り」と言う言い方をします。
 アニメに関係のない人でも、「アニメは『1コマ撮り』」のように、「コマ撮り」 という言葉はよく耳にすると思います。

 そう考えると、どちらかと言うとストップモーションアニメをメインに考えると「コマ撮り」と言う言葉を使い、セルアニメをメインに考えると「コマ打ち」と言う言葉を使うと言う印象を受けます。が、どちらもアニメなので、その「打ち」「撮り」が混合されて使われるようになったのでは?と思われます。

 ただ例えばストップモーションアニメを 説明するのにこの ような文章があったとします。

「ストップモーションアニメは1コマ、1コマ撮影するコマ撮り映像で、私は「2コマ撮り」しています。」

 「1コマ、1コマ撮っていくのに「2コマ撮り」?」とやや混乱を招く恐れがあるので、「打ち」を使った方が無難かもしれません。

フルアニメの反対が「コマ打ち」と言うのは間違い?

 よく「フルアニメの反対が『コマ打ち』と言うのは間違い」と一般的に言われます。
 それはなぜでしょう? 

 フルアニメが「全身を描く」のに対し「全身を描かない」=「リミテッド・アニメ」がフルアニメの反対語だから、と言うことです。

 同じ様に、よく言われる『「コマ打ち」はリミテッドアニメ』と言うのは、厳密には間違いになります。
 100%間違いではないでしょうが、私もこれには違和感は感じます。この文では誤解を招くので…
 「コマ打ち」はリミテッドアニメの中の手法の1つであり、「コマ打ち」がリミテッドアニメと言うことではありません。

 ただフルアニメの360度(180度?)の反対の位置に存在するのが「コマ打ち」と言うのは間違いではない、と個人的には思います。

「フルアニメ」「リミテッド」「コマ打ち」の微妙な境界線


 さらに話をややこしくすると、「2コマ打ち」でも「全身を描い」ていれば(全身が動いていれば)、それはフルアニメだ、とする人も多くいます。現に日本のウィキペディアでは「2コマ打ち」はフルアニメーションとして紹介されています。

 またフルアニメとリミテッドアニメの違いは、あくまでも「全身を描く」か「口だけ動かす」かの違いであり、「コマ打ち」は関係ない、と言う人もいます。

 さらにもっと細かく言うと、24枚の絵がすべて異なると言う事は、「白雪姫」でも背景と人物は別に描かれていて背景に省力化が行われていることから、それもフルアニメとはしない、と言う極右派(極左派? どっちでもないですが…)もいます。


 そうなってくると、フレデリック・バックの「木を植えた男」のような、背景も含め表示される絵の全てが異なる絵で構成されて、さらに「1コマ打ち」されたモノのみがフルアニメーションと言うことになってしまいます。

 ここら辺になってくると言葉の綾を取っている感がありますが、そうなってくると「白雪姫」でも演出上、白雪姫が止まっているシーンがあると思いますが、そこは同じ絵が数秒(数フレーム)続くので、それもフルアニメにはならな要因になるのか?と言うことにもなってしまいます。

 逆に「2コマ打ち・3コマ打ちは必ずしもリミテッド・アニメではなく、相応な演技が実現されていればフルアニメに位置付けられる。」とする穏健派(?)もいます。

微妙な境界線に対する私の考え

 私は フルアニメーションの定義は「1コマ打ち」の「24枚の異なる絵」のもの(静止時を除く)と 考えています。 要するに「1コマ打ち」 であれば「口だけ別に描く」手法がたとえ使われていても、私はそれをフルアニメと考えます。

 「1コマ打ち」では「口だけ別に描く」必要はないと基本考えられます。
 各ポーズに対するすべての口の動きは、全身と共に開かれているのだから、全身をすべてのフレームに描くのならば口だけ別のセルに描く意味がない、というか別に描く方がかえって手間だからです。

 よって『フルアニメ=「口を別に描く」手法は使わない』、『リミテッドアニメ=「口を別に描く」』と言う方程式が作られていると思われます。

 では「1コマ打ち」のアニメで「口だけ別に描く」と即時アウトでリミテッドになるのか?と、思ってしまいます。

 フルアニメでは「口を別に描く」必要性はないと言うのは基本的にはそうでしょう。ただ「口を別に描く」ことによって、例えばその全身部分のセルを別のシーンで別の形の口のセルを乗せて使う事もできます。

 このように1コマ打ちをしているアニメでも「口を別に描く」手法を使ったとするとリミテッドアニメになってしまうのでしょうか?
 言葉の定義を厳密に考えていくとそうなってしまうのかも知れないですが、まるで憲法解釈の論争のように感じてしまいます…

 「2コマ打ち」も フルアニメだとする人が多い中、「2コマ打ち」も「口だけ別に描く」メリットはあまりない事が多いかも知れません。しかし、やはりそこは「1コマ打ち」ではないでの「口だけ別に描く」メリットが生じる場面も多いので、「口だけ別に描く」手法はよく使われます。

 ややここでの論点と外れますが、「3コマ打ち」は基本「口だけ別に描」きます。これは誰からも文句の出ないリミテッドアニメと言えるでしょう。(細かく言う人は「3コマ打ち」で「口だけ別に描」いてない場合はリミテッドではない!」となるのでしょうか?まあ基本「3コマ打ち」で「口だけ別に描」かない、なんてほぼ無いと思うのですが…)

 よって私は「2・3コマ打ち」はリミテッドアニメの1種だと思っています。ひょっとして「2・3コマ打ち」でも「口だけ別に描」いてないものもあるかもしれません。でもそんな事おいておいて、「2・3コマ打ち」はリミテッドの中にいる。そしてフルとリミテッドに線を引くなら「1コマ打ち」か否かだと。

「フルアニメ」に明確な定義はない?

 そもそも誰がフルアニメーションは「1コマ打ち」もしくは「2コマ打ち」もいいよ、と決めたのか?
 そうなってくると、もともと初めてフルアニメーションと言う言葉を使用した(作った)人が「ほんとは1コマ打ちだけど2コマ打ちもフルアニメーションと呼んでいいよ!」、と言ったのか?という話になってしまいます。

 フルアニメーションの「フル」が何を指すのかと言うことだと思うのですが、「フレーム数をフルに使って」と言う意味なら、やはり24コマ全て異なる「1コマ打ち」のみがフルアニメーションと呼ばれるべきだと思います。

 もしくは「フルに表現されている」と言う意味ならば、確かに「2コマ打ち」までもフルアニメーションと呼んでもいい気もします。

 しかしその上に24コマと言う、コマ数でも表現力でも最上級の本当のフルがあると考えると、やはり「2コマ打ち」までフルと呼ぶのは、私はどうも違うと思ってしまいます。

 「2コマ打ち」でも表現が素晴らしく「1コマ打ち」同等の動きで、かなり手の込んだ作品に対して「リミテッド」と言う言葉を使うのが心苦しい/違うのでは?と言うのも分かりますが…

 よって、次の私の結論でリミテッドと言う言葉を使わなければ良い、と言うことになるのです。

「フルアニメ」の反対語は「フルアニメじゃない」でいいのでは?

 何がほんとうに正しいのか分かりませんが、私は個人的に「白雪姫」のように、(静止時を除いて)すべてのフレームのセルの絵が異なる「1コマ打ち」のものはフルアニメだと思っています。

 そして「1コマ打ち」をしないのならば基本、「口だけ動かす」手法が採用されていると思います。
 私は「2コマ打ち」で「口だけ動かす」手法を使用してないセルアニメ作品を少なくともパッとは思いつきません。アニメの歴史上そういったものはあったのかもしれませんが。(ジブリなどは「口だけ動かす」手法を使える場面でもこだわって顔全体も描くことで知られていますが、全てのシーンに対してではありません)

 要するにフルアニメは「1コマ打ち」されたもので、それ以外のものは全てフルアニメじゃない、と言う定義で良いのではないか?と思っています。現在のアニメはほとんどが「3コマ打ち」。劇場用アニメでは「2コマ打ち」も多いですが、その中で「口だけ動かす」手法をとってないモノはまずないでしょう。

 そう考えると「『フルアニメ』の反対語は『フルアニメじゃないアニメ』でいいじゃん?」と思いますが、やはり『フルアニメじゃないアニメ』では言葉にシマリがない、と言うのも理解できます。
 そこで「フルアニメ」に対し、同じカタカナのリミテッドアニメと言う言葉が使われるようになったのでしょう。
ただそれは厳密に言うと間違いと言うことで…となるとまたこの議論の最初からやり直し

最終的には何と言うのが正しいの?

 「コマ打ち」と言うのは「2コマ打ち」・「3コマ打ち」が登場した事によって初めて使い出された言葉。現に実写映画では当然すべての作品が「1コマ打ち」なので、わざわざ「1コマ打ち」と言う必要はありませんでした。よってそんな言い方は使われてなかったハズです。

 ようするに「1コマ打ち」と言う言葉は「2・3コマ打ち」があるからワザワザ使用する言葉であって、本来からは「1コマ打ち」のように「1」の時は「コマ打ち」という言葉はいらないハズなのです。

 もし、この微妙な境界線になんらかの決着をつける妥協点を決める会議があったとしたら、「フルアニメ=1コマ打ちのセルアニメ(背景は別という意味)」というのは、ほとんどの人が納得できる妥協点だと思われます。

 そしてリミテッドアニメで「口だけ動かす」手法をとってないモノはまず無い、という別の妥協点から、もしフルアニメの反対語を決めるなら、それは「2・3コマ打ち」でいいのではないでしょうか?
 (もし「2」というコマ打ちの数字にどうしても、と異論を唱える人がいるならば、フルアニメ←[「コマ打ち」でいいです。)

 少なくとも私はざっくりと、そう(フルアニメ←[2・3コマ打ち」)考えています。そして世界も、この考えを受け入れられる平和な世の中にいつの日にかなることを、心から願っています(←意味なし)。チャンチャン

補足のおまけ

 せっかくキレイにまとまった(?)のになんですが、最後に補足のおまけとして、上でも1度紹介した絵も含めて、大まかな撮影方法の一覧図をつけ加えます。

 見ていただくと、 1番上の「フルアニメ」と、それ以降すべてを「その他のアニメ」と分類できる、と言う私の言っていることを目で見て納得していただけるのではないでしょうか?

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