"The Heart of Saturday Night" by Tom Waits(「土曜日の夜」トム・ウェイツ)-おすすめアルバム2-
The Heart of Saturday Night
(土曜日の夜)
Tom Waits
トム・ウェイツ
ご存知「酔いどれ詩人」トム・ウェイツの渋すぎるセカンド・アルバム
ご存知「酔いどれ詩人」トム・ウェイツの渋すぎるセカンド・アルバム
男なら誰もが憧れる、ご存知トム・ウェイツ。
独特な嗄れた歌声、ジャジーなピアノ、特徴的な歌詞と荒くれ者っぽい風貌。知らない人はいないというくらいの超有名アーティストだが、私は20代後半まで彼の初期の作品を全くと言っていいほど知らなかった。
キース・リチャーズやエルヴィス・コステロ等の著名ミュージシャンからも高く評価され、楽曲をカバーするミュージシャンも多い。
有名なところではイーグルスの「オール'55」、ロッド・スチュワートの「ダウンタウン・トレイン」などがトムのカヴァーだ。
本人曰く、「得意楽器はボキャブラリー」だと言う。音楽の世界だけに留まらず、俳優としても多数の映画に出演し、フランシス・コッポラやジム・ジャーミッシュといった映画監督と関係が深い。
街で会う人会う人がみな口々に「トム・ウェイツはー」「トム・ウェイツがさぁー」と彼を話題に出す。
それまで、どちらかと言うと彼の後期の、しかもヒットチャートに載る様な作品や、はたまた「これ歌なの?」と言った感じのゴニョゴニョとセリフを話しているだけの様な作品しか知らなかった私は、なぜここまでに多くの人がトム・ウェイツを評価しているのか今一理解出来なかった。
彼の印象を私に決定づけたのが、日本のドラマのセリフにもトム・ウェイツの名前が登場したことだった。ドラマの名前は忘れたが、高橋克典が主演だった。
根はやさしい不良の役で、「俺の夢はトム・ウェイツのように歌えるようになることだ。」と言っていた。
そして20代後半になった私は、その頃の腰の入っていない音楽に飽き飽きしていた。なにか聞きごたえのあるアルバムはないかな?っとCDショップをブラブラしていた時、ふと「そうだトム・ウェイツでも聞いてみよう」っと彼のセカンド・アルバムを買った。
1.New Coat of Paint /2.San Diego Serenade /3.Semi Suite /4.Shiver Me Timbers /5.Diamonds on My Windshield /6.(Looking for) The Heart of Saturday Night /7.Fumblin' with the Blues /8.Please Call Me, Baby /9.Depot, Depot /10.Drunk on the Moon /11.The Ghosts of Saturday Night (After Hours at Napoleone's Pizza House)
1曲目の1秒目からドドーンっと来た!まさに1秒目から惚れてしまった。いいアルバムは不思議と最初の数秒で、これはきっといいアルバムになるだろう!と感じてしまうから不思議だ。そして、まさにこのアルバムも予想通り見事なものだった。
デビュー作『クロージング・タイム』の音作りに不満があったトムが、よりジャズ色の強い音作りを目指し作った、というだけあって、本作はタダモノではない。全体を通してジャジーなのだが、ただのジャズではなく、ジャズを使って自分を見事に表現している。まさしくジャズを道具に自分の世界を描いているという感じだ。
どこがサビだか分からないような曲や、変拍子のような曲。歌詞だけを読んでいても1冊の本を読んだ様な満足感。どうしたらこのような素晴らしい発想が出て来るのかと脱帽してしまう。
1.トップを飾るのにふさわしいアップテンポのブルージィーなナンバー。スタンダード的な曲調で、トムのピアノも唄っています。
2.全文が「Never~」で始まる歌詞で見事に話しを作り上げている。曲調はそれに合わせてシンプルながらも、どんどんと盛り上げて行くところは見事。
3.「歌っている」というよりは、ほぼ「話している」という感じだが、やはり「歌っている」。しかも、それがかなり味がある。誰も真似の出来ない歌唱力だ。
4.トムのお得意とするやさしいメロディ。ジーンと心にしみ込んで行く様な曲。
8.彼の代表的な曲。ちょっと拍子から余ったように次の小節につなぐピアノが凡人ではない、と思わさせられる。
10.心がキュンとなるようなツボを押さえたメロディが最高。最初のうちは他の曲に比べてそれほど好きではなかったが、聞いてるウチに個人的には彼の作品の中で一番美しい曲と思う様になった。こんな美しいメロディを思いつける彼には脱帽の一言しかない。
前記したが、本人はデビュー作の音作りに不満があったようだ。確かに音的にはセカンドの方がトムらしい。私もそのような理由でか、セカンドの方が好きだ。
しかしデビュー作『クロージング・タイム』もかなり素晴らしい。こちらは、全曲シングル・カット出来るという位、曲も全て分かりやすいし聞きやすいかもしれない。(ジャケットはこちらの方が断然かっこいい)
中でも個人的には、美しいメロディのバラード『10:"Little Trip to Heaven (On the Wings of Your Love)"』(日本語名:愛の翼)が彼の最高傑作の1つとして気に入っている。もう「クラシック」と呼ぶにふさわしい名曲だろう。
トム・ウェイツ初心者はこちらから入ってみるのもいいかもしれない。
いずれのアルバムを聴くにしても、トムの曲を聴くときは静かな夜にバーボンやワイン片手に聴きたい。自分に酔えちゃうこと間違いなしです。